忘れた
ふと、目の端に映った黒い塊。


そうだ、気になるのなら電話すればいい。たしか病院内では使用禁止って言われたけど、少しならーー。


学校はもう冬休みのはず。


連絡先に当たり前のように登録してあった、東奈緒の番号に電話をかけた。


しばらくコール音が続き、


『……ふぁい、もしもしぃ』


眠そうな声が俺に届いた。今起きたのかよ、もう9時だぞ。


「もしもし、俺、勇介だけど」


『えッ…』


短い返事だったが、戸惑いと焦りと驚きが感じ取れた。


『勇介? ど、どしたのよ』


久々に聞く奈緒の声に、思わず顔がほころぶ。


「や、特に用はないんだけどさ」


『なんだそりゃ』


ハハハと笑う俺に、奈緒もつられてクスリと笑った。


「急に奈緒が来なくなったからさ、寂しいなぁと思って……なんてね」


『えっ…』


しばらくの沈黙の後、奈緒が言った。


『いやあの、病室の前までは、何回か行ってたんだけどね……』

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