忘れた
それから奈緒が来るまでの時間は永遠に感じられた。


起き上がってベッドに座り、何度も電話を掛け直すが、奈緒は電話にでなかった。


そして。


「ゆうすけっ」


勢いよく、奈緒は病室に入ってきた。


「きたよっ」


息を切らせた奈緒。その笑顔がとてもとても懐かしくて、止まったと思った涙がまたこみ上げる。


奈緒がベッドに近づいてくる。


それはまるでスローモーションを見ているかのように美しくて。


ほっぺを真っ赤に染めた、可愛い女の子。


「奈緒」


俺は彼女を引き寄せて、その冷たい頬を包んだ。


おデコがコツンと音を立てる。


見ると、奈緒は泣いていた。長い睫毛がキラキラ光っていた。


「夢じゃ、ないよね?」


俺はにっこりと笑った。奈緒も笑っていた。


そして静かに、唇を重ねたんだ。


【完】
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