忘れた
「え…」


唖然とする勇介の視線は、2階の一室へと注がれていた。


「家に居づらいって、こういうことか…」


勇介の隣であたしはコクリと頷く。


部屋から漏れ出す、大音量の音楽。大勢の下品な笑い声。


小さな駐車スペースを占領する大量の自転車たち。


あたしは慣れているけど、勇介にとっては衝撃だろうな。


「あの部屋、弟の部屋なんだ。その隣があたし。

ほとんど毎日こうなんだ。本当、近所迷惑だよね。

青春を謳歌するのもほどほどにしろって感じ。

あたしの言うことなんて、何にも聞かないんだから」


ハハハ、と苦笑いして見せると、勇介は眉間にシワを寄せた。


「奈緒、そんなんじゃ、ダメだよッ」


そう言ったかと思うと勇介は、自転車をたててあたしの手を取り、勢いよく玄関のドアを開けて正面の階段を駆け上がりーー

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