忘れた



時刻は夜の10時。


健斗はさっき帰ってきて、あたしにこう言った。


「ナンパなんて、2度としねえッ」


何があったのかは知らないが、いつも偉そうな健斗がシュンと落ち込んでいる様子は、実に愉快だった。


健斗のあの顔。思い出しただけで、笑えてきちゃう。


1人、部屋でニヤニヤしているあたし。


傍から見たら、気持ち悪いだろうな、なんて思っていると、聞きなれない電子音が鳴った。


それがケータイの着信音だと気づくのに数秒かかってしまった。なんせ、あたしのケータイに電話なんて滅多にかかってこないから。


慌ててケータイを取り上げ、画面に写る名前を確認。


“松葉 勇介”


えっ、勇介? 一体何の用だろう。


あたしは急いで通話のマークをタップした。

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