忘れた
噴水がしぶきを上げる音、鈴虫の鳴き声。この場所のすべての音が、あたしの耳に心地よく響いていた。


……どのくらい時間が経ったのだろうか。腕時計を見ると、夜の9時半をさしていた。


いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。街灯が明るくて、全然気づかなかった。


周りを見渡すと、もうあたししか残っていない。


暗さにも1人ぼっちにも慣れているから、怖くはなかった。


ただ、この状況がどれほど危険かなんて、この時のあたしは知らなかった。


「夜は危ないから、1人で出歩いちゃダメよ」


母のその言葉を、身をもって知ることになろうとは、夢にも思わなかった。


それは突然の出来事だった。

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