忘れた
早水の顔に、一瞬だけハテナが浮かぶ。


そして、プッと吹き出した。


「東は俺の名前、覚えてなかったんだな」


「いやいや、ちゃんと覚えてた。呼び捨てでいいっていうのも覚えてたし」


あたしは言い張る。


「そ? まあいいや。じゃあ改めて、俺は早水 聡(はやみず さとし)」


早水は、ニッと目を細めて笑った。


「あ、あたしは東 奈緒」


「知ってる」


「そ、そっか」


さっき東って呼ばれたんだった。


「っていうか、夏休み明けてから、急に喋るようになったんだな」


ああ、あたしのことね。


「うん、夏の間に色々あってさ」


「ふーん。なんか、東の声聞くの久しぶり過ぎて、変な感じ」


「そう?」


喋っているうちに、あたしは速水に対して警戒心が薄れていった。


それにしても速水は、よく笑う。


つられてこっちまで笑顔になる。

< 67 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop