忘れた
「何やってんだッ」


遠くで誰かの叫び声が聞こえた。


男は手を止めた。胸の方もスカートの方も。


「おいッ」


今度はもっと大きい。誰かが助けに来てくれたのだろうか。


男は舌打ちして、その場を去った。


助かった…


よかった…


あたしはすっかり息が上がっていた。


「大丈夫?」


顔を上げると、あたしを助けてくれた声の主が目の前にいた。クルクルの髪に、栗色の目をした男の人だった。


走って来てくれたのか、彼も息が上がっていた。


あたしは、コクンコクンと何度も頷いた。急に、涙が溢れてきた。震えが止まらない。


だんだん状況が理解できてきて、今さっきの出来事がより一層恐ろしくなった。


何より、あんなことを考えた自分が恐ろしかった。あたし、男なら誰でもいいわけ?

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