忘れた
「あー、奈緒。いらっしゃい」


勇介と会うのは一緒にバレーをしたとき以来だ。


でもよく電話で話していたせいか、久しぶりという感じがしなかった。


上下黒のスウェット姿の勇介は、少し疲れた顔をしていた。


きっと仕事終わりで疲れているんだろう。あたしは申し訳ない気持ちになった。


「ごめんね、急で。疲れてるのに」


「いや、いいんだ。どーぞ、上がって」


勇介の家の前には来たことがあるが、部屋に上がるのは初めてだ。


「おじゃまします…」


あたしは少しだけ緊張した。


この部屋は1DKらしい。


狭い玄関には男物の靴が乱雑に並べられ、廊下は散乱した衣類でごった返していた。


勇介に続いて、あたしはキッチンダイニングを抜けて奥の洋室に入る。


そこはあたしの部屋よりちょっと狭く、物が色々あって余計に狭く感じた。


「これでも綺麗にしたんだ」


と勇介は言う。


黒の革製のソファに小さめのテレビ。その周りにゴチャゴチャと雑誌やらDVDやらが散乱している、といった感じだ。

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