忘れた
体を揺すってみる。


「勇介、起きて。終わったよ」


ゆっくりと瞼が開き栗色の目が覗いたかと思った次の瞬間、


「わっ」


あたしは勇介の腕の中にいた。ぎゅうっと抱きしめられ、顔が勇介の胸に当たる。


「ちょ、勇介? 寝ぼけてる?」


何が何だか分からず、あたしは勇介を押し返したが、力が強くて動かない。


と、腕の力が緩んだ。勇介の顔が見える。こんなに近く…


頬に、頭の後ろに、手が伸びてくる。


「な…お」


ゆっくりと勇介の顔が近づく。まつ毛の1本1本がハッキリ見える…


心臓の音がどんどん早くなる。


あたしは金縛りにあったかのように、動けなくなった。


目の前が真っ暗になり…


唇に、温かくて柔らかいものが触れた。


いつか、頬に感じたあの感触だった。

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