忘れた
俺はあの男と同じことをしようとしてたんだ。


バカだ、俺。


やっと冷静になった俺は、ソファからおりて奈緒に背を向けた。


「ごめん。今のは忘れて」


そう言って、風呂場に向かった。


シャワーを浴びながら、俺は奈緒に初めて会ったときのことを思い出していた。


奈緒を最初に見かけたのは、半年前の、桜が舞い散る日だった。


たしか、夕方の6時頃だったと思う。車であの公園を通り過ぎたとき、ベンチに座っていた女の子が見えたんだ。


髪が長くて、どこか儚げで。一瞬だったけど、その子の何かが俺を引きつけた。


そのベンチは、俺のアパートの窓からも見える。俺は帰るとすぐに窓を開けた。


けれど、角度がちょうど逆方向で、後ろ姿しか見えなかった。

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