忘れた
次の日も、その次の日も、その子はベンチにいた。


ベンチは円形に並んでいるから、その子が座る場所によって顔が見えたり見えなかったりする。


いつの間にか、その子を眺めることが俺の毎日の楽しみになっていた。


そんなある日、事件は起こった。


仕事から帰って窓を開けると、その子はいなかった。


今日はいないのかと思った。


でも、ベンチにはその子のカバンが置いてある。


俺は嫌な予感がした。


辺りを見渡すと、暗闇でもみ合う2つの影が見えた。


気づくと俺は走り出していた。


無我夢中で走った。何か叫んだ覚えもある。


その子の元にたどり着いたとき、奴はもういなかった。


初めて近くでその子を見た。暗くてよく見えなかったが、綺麗な子だと思った。


その子は震えていた。


俺はこの子を守りたいと思った。

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