忘れた
俺は奈緒を引き寄せ、思いっきり抱きしめた。


「俺の方こそ、ごめん。奈緒が止めてくれてよかったよ。じゃなきゃ俺…」


「勇介、苦しい」


「ああ、ご、ごめん」


強く抱きしめすぎた。俺が腕を緩めると、解放された奈緒は、上目遣いで俺を見上げた。


「その顔、やばい。キスしたくなる」


途端、奈緒は顔を俺の胸に埋めてしまった。


「勇介のエッチ」


「ごめん、しないから。顔上げて?」


奈緒はゆっくりと、赤くなった顔を上げて言った。


「勇介がさっきキスしてきたの、あのDVDのせいでしょ」


「は?」


「だ、だって結構過激だったから、それに触発されたんじゃないの?」


真剣に言う奈緒が可笑しくて、俺は笑ってしまった。


「あの手の映画は見慣れてるから、そんなことで誰かにキスしたりしないよ」


すると、奈緒は目を細めて言った。


「ふーん。見慣れてるんだ」

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