忘れた
「でもその前に」


彼は真剣な表情で言った。


「警察に電話しなよ」


警察!? 冗談じゃない。大ごとになっちゃうじゃん。


「いい、いいです。あたし、アレされたわけじゃないんで、本当大丈夫です。

今日のことは、あたしの中で、無かったことにします」


「そっか」


彼の声は不満そうだった。


「じゃあせめて両親に」


「親は2人とも仕事で、今日も遅くまで帰ってきません。なので大丈夫です」


「…君がそれでいいならいっか。じゃあ行こか」


「はい…」


車中、彼はずっと喋り続けていた。失敗談を自虐的に話したり、バイトの店長の天然ぶりを笑ったり。


あたしを元気付けようとしてくれてるのは分かるんだけど、今はとても笑う気分じゃないよ。


あたしは、はぁとかへぇとか相づちをうって、適当に聞き流していた。


そして、やっと家に着いた。

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