忘れた



帰り道。あたしは早水と横並びで、駅までの道のりを歩いていた。


早水は自転車を押している。


「さっきはありがとね。

教えてもらった通りに飛んだら、上手くいったよ」


「いいんだ。結局5回、続かなかったな。やっぱりお前のせいじゃなかったんだ」


あたしは、ふふっと笑った。


「早水って、意外と優しいね」


「意外と、は余計だ」


早水はそう言って、あたしの肩を軽くパンチした。


「いったーい」


あたしは笑いながら、仕返しした。


「なあ、お前って、好きな奴とかいるの?」


唐突に、早水はそんなことを聞いてきた。


「あ、あたし?」


「お前しかいねえだろ」


そっか、そうだよね。


「あたしは、彼氏がいるよ」


そう言うと、早水の肩がビクッと震えた気がした。


「そっか…」


それっきり、早水は喋らなくなった。

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