綺麗なままで
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頬を両手で温めるようにしながら、軽くマッサージ。
化粧水と乳液で保湿した後、少しでも顔色が良く見えるようにと、丁寧にリキッドファンデーションを伸ばす。パウダーを軽くのせてベースメイク完成。
さすがにつけまつげはやり過ぎのような気がしたので、ファイバー入りマスカラで念入りにまつ毛のボリュームを出してみる。我ながら上出来。
チークはほんのりピンクベージュ系。最後にヴァニティケースの隅に入っていた口紅を手に取る。新しいリップブラシで丁寧に輪郭をなぞり、グロスも重ねた。
いつ、いかなる時も、綺麗でありたいと願うのは女として当然のことかもしれない。
特に、私の母はそういう人だった――。
「どうしてうちにはパパがいないの?」
私が尋ねると、困惑したような表情を浮かべたまま、決まって母はこう答えた。
「美代(みよ)のパパは、天国にいるから」
弱冠十八歳で私を出産した母は、夜の仕事で生計を立てていた。
華やかな女優のようないでたちで、常に多くの男性に囲まれていた母。
私にはなるべく見せないようにしていたらしいけれど、一緒に生活していたら嫌でもわかる。また男の人と一緒だったんだという、母の艶めいた表情、声、そして匂い。
女としての母は、娘の私から見てもとても魅力的だった。ただし、同じ男の人とは、半年以上続いた事はない。
家に男の人を招いた事もない。おそらく、私がいることを隠したまま付き合うには、そうするしかなかったのだろう。私にとっては好都合だったけれど。
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