綺麗なままで
久しぶりの親子水入らずの夜。
綺麗な顔で布団に横たわる母と、同じメイクの私。もちろん、以前教わった時よりはナチュラルメイクで。
「外へ出る時は、母娘おそろいで」
母の願いはおそらく、愛用のコスメで最期のメイクを施してもらうことだった。
自分が一番似合うコスメで、自然な美しさのまま。
ナースでも葬儀屋さんでもなく、娘の私の手によって。
だからあんな言い回しになったのかも知れない。
「お父さんって、本当に天国にいるの?」
もちろん、返事はない。でも。
「そっか。だからちゃんとメイクして欲しかったんだ。きっとお父さん、若くしてあっちに行っちゃったんでしょう。『お前、老けたな』とか『化粧浮いてるぞ』なんて言われたくないもんね」
……大丈夫だから。綺麗なままで行ってらっしゃい。
心の中で呟いて、また穏やかな微笑みを浮かべる母の顔を見つめた。
【完】