綺麗なままで
一週間後、外科のドクターからの告知と、手術の説明を受けた。
それを聞く母の様子はやっぱり普段と同じで、ドクターとの話もお店の常連さんと交わす気さくな会話のようだった。
心なしか嬉しそうに手術の説明を聞く母は、ドクターに確認した。
「これで、黄色くなったのが治るんですよね?」
「ええ、黄疸は治りますよ」
「あ~良かった~。よろしくお願いします」
それから手術までの数日間、母は病棟で積極的に動き回り、患者仲間を増やしていった。休憩時間や休みの日に病室へ行くと、いつもベッドが空っぽで、大抵デイルームか喫茶店にいる。
病院の味気ないパジャマの上に真紅のガウンを羽織り、点滴をお供に笑顔を振りまいて歩く母は、あっという間に病棟の人気者になったようだ。母の周りでは、いつも笑い声が響いていた。笑いは免疫力をアップさせるから、と言って、母はとにかくみんなを笑わせた。
母の社交的な性格が羨ましいといつも思っていたが、まさかここでも発揮されるとは。
手術前日、母は私にプレゼントをくれた。ずっしりと重たい紙袋の中に、何が入っているのだろうか。
「ねえ、開けてみて」
楽しげに笑う母に促されて、赤い包装紙をそっと開けた。
入っていたのは、真紅のヴァニティケース。中身も基礎化粧品からつけまつげまで、全て揃っている。
「どうしたの、これ?」
「外出した時に買ったの。ほら、おそろいなんだから。昔はよく母子ペアで歩いたものだけど、さすがにこの歳になるとねぇ」
今でもはっきりと思い出せる。おそろいのワンピースでデパートへ行くと、必ず色々な人から『可愛い』と声をかけられた。さすがに今は恥ずかしくてできない。だいたい、当時の母は今の私よりずっと若かった。それを考えると驚くばかりだけれど。
「私達って似てるでしょ? だからきっと美代にも合うはず。まだ若いんだから、もっとちゃんとお手入れして綺麗にしなきゃダメよ」