サクマドロップス



だから思いきって、



「……藤原さん」



声を掛けてみたの。

すると…



「泰誠…でいい。」



彼が心地のいい声色で甘く囁いた。



「泰誠く…ん……?」



元々私は引っ込み思案な性格。

だけど今日はいっぱい勇気を振り絞ったから、勢いで彼の名を呼べることができて


素直に嬉しかった。


嬉しくて嬉しくてたまらない。


だから無意識のうちに笑顔になれた。


私のことも名前で呼んでくれないかな?

こうなったら勇気があるうちにって思うけど、そうは簡単にいかないようで



「私のこと…は、ま…ま……」



噛み噛みになってしまう。



「真雪ちゃんって呼ぶよ。」



だけど彼は優しい表情で、極上の言葉を私にくれるんだ。


"真雪ちゃん"


考えられない。

だって昨日まではホームで見掛ける人で

電車が同じ人だったのに、



今では名前で呼びあってる。


彼の囁きはからだ中を熱くさせる…なにかのウイルスかもしれない。



そんな私を見て



「ハハハ、真雪ちゃん真っ赤。」

「た、泰誠くんこそ赤いじゃないですか!」



彼は褐色に焼けた肌に真っ白な歯をそろえて、爽やかに笑った。

だから

つられて私も笑ったんだ。



彼と知り合えて嬉しい。



こんなに優しい人だったなら、3年も待たずに積極的に話し掛ければ良かったな…。

きっと彼なら受け入れてくれたに違いない。


あぁ、幸せ…





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