サクマドロップス
*
「はぁっ…はぁ……っ。」
運動音痴な私が、
彼の元へ走る。
なんで?
なんで私に会いに来るの?
だってあなたには大事な人が居るのに…
一体どうして?
こぼれ落ちる涙…
擦っても擦っても、
止まらない。
それと同時に私の気持ちも
止まらない。
階段をかけ下りて、
髪の毛もボサボサで、
顔も涙でぐちゃぐちゃで、
今の自分は最悪だ。
「っきゃ!」
「あっ、ごめんなさい!」
人とぶつかっても振り返れない。
私の息と足音だけが耳に残って、
そのほかの音はなにも聞こえない。
なにもかもスローモーションに動いて、
私の視界だってボヤけてて、
私だけ違う空間に居るみたい。
だけど、
だけどね
泰誠くんだけははっきり見えるの。
彼は正門に寄り掛かりながらサクマドロップスを持って、空を見ていた。
塩素で抜けてしまった色素の薄い髪の毛を風でなびかせながら
ただただドロップスをクチに放り込んでは食べ…を繰り返している。
今日は練習がないのか、
見掛けないスクールバックを肩に掛けていた。
「たっ…泰誠くん!」
あと一歩っていうところで、
私は立ち止まった。
そして
「っ!ま、ゆきちゃん!」
私の好きな人が久しぶりに名前を呼んだ。