サクマドロップス
だけどこうして自分の世界で見てられるのも、2駅目を過ぎると終わってしまう。
「おはっ!」
「…はよ。」
同じ部活の副部長の橋本ひろなが乗ってくるからだ。
ひろなは車内を見回して、俺にからかいの目を向けてくる。
「ふふふ~。今日も居るんだ?」
「煩い。」
ひろなは俺が3年間片想いをしていることを唯一知る人物。
小さい頃から同じスイミングクラブに通っていたこともあって、クラスの男友達より、仲がいいかもしれない。
"腐れ縁"。
うん、この言葉が一番しっくり来るかもしれない。
もちろん、ひろなは俺と色沙汰は一切ない。
男兄弟って感じで育ってきたのもあるし、こいつにはかれこれ10年付き合ってる彼氏がいる。
その彼氏も俺の2つ上の兄貴。
だから、
「今日家行くね~。」
「来なくていい~。」
コミュニケーションもそこらの恋人と変わらないから、よく勘違いされやすい。
「都高校まであと2週間だね~。」
「だな。まずは関東突破しような。」
「当たり前!」
俺たちは水泳部。
お互い水泳を始めてから15年は経っている。
それに俺たちの通う高校はスポーツの名門校でもある。
だから俺もインハイでは入賞争いが出来るぐらいの実力だ。
"次は~○○駅~。"
あぁ、着いてしまう。
そして
俺らは改札を出ると正反対の道を進む。
今日も終わってしまった…。
一歩 二歩 三歩……
そして
後ろを振り向けば、
彼女も少し遅れてこっちに振り向いて、
"また明日。"
俺たちは前へ進む。
向こうは何を思って振り返っているのかわからないけど…
必ずこっちを見るんだ。
自惚れてるかもしれない。
けど彼女の目は真っ直ぐ俺をとらえて、慌てて歩いて行ってしまうんだけどね。
「泰誠、行くよ~。」
ねぇ、
キミは一体誰を見ているの?