サヨナラなんて言わせない
「今日は仕事は絶対に駄目です。涼子さんがなんと言おうとも休んでもらいます」

「で、でも・・・・」

「どうしてもと言うならこの腕を剥がしてください。剥がせない限りは行かせません」

そんなムチャなと顔に書いてあって思わず笑いそうになる。
無理だからこそ言っているのだ。
治りきらないうちに無理をするとすぐにぶり返すのが涼子のパターンなのだから。絶対に行かせない。

「・・・・はぁ、わかったわよ。会社に連絡するから手離して」

俺の本気が伝わったのか、彼女は諦めたように溜息をこぼした。
その言葉に安心した俺はすぐに彼女を解放する。

自由になった彼女はすぐにスマホを手にして中身を確認する。
さっきから頻繁に鳴っていたのは一体誰からの連絡だったのか。
身勝手な嫉妬心が俺の心をざわつかせる。

ふと俺の視線に気付いた涼子はバツが悪そうに向きを変えると、
俺に背を向けて画面をタップし始めた。
・・・・・やはり相手はあの男ということなのだろう。

それから会社にも連絡する彼女の姿を黙って見守る。
全てを終えて気まずそうに振り向いた彼女にニッコリ微笑んだ。
今は彼女を元気にさせること。
それ以上に大切なことなんてないのだ。

「良かった。今日はちゃんと休んでてくださいね」
< 128 / 373 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop