サヨナラなんて言わせない
「あ、・・・・ありがとう。なんだかんだで助かったわ」

突然彼女の口から出た言葉が信じられない。
今、ありがとうって言った・・・?
謝るのは俺なのに?お礼を言うべきなのも俺の方だって言うのに?

やっぱり彼女は何一つ変わってなどいない。
どんな時だってありがとうとごめんなさいを大切にできる人なのだ。
・・・・たとえこんな俺が相手であっても。

そんな誠実な君にこれ以上嘘をつくことは許されない。
だからこそ、早く元気になってもらうんだ。
真実をきちんと伝えるためにも。

「当然のことをしただけですよ。それにこちらこそ本当は昨日出ていかなければならないのに残ってるんですから、お互い様です」

すっかり忘れていただろう彼女が思い出した様な顔になる。

「そのことなんですけど・・・僕はまだ出ていきません」

「・・・・・・・は?」

全く予想外のことだったのか、呆気にとられている。
やがてその顔は険しくなり俺を訝しい顔で睨む。
それはそうだろう。
でも俺ももう決めたのだ。絶対に引くことはできない。
真剣な顔で涼子に向き合った。
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