サヨナラなんて言わせない
「涼子さん!」

手に持ったままぼーっと考え事をしている彼女の手元から、
傾いたゼリーがもうほとんど零れかけていた。
咄嗟に声を掛けたが間に合わず、足元にボタボタと落ちてしまった。

「あ・・・」

慌ててタオルに手を伸ばした涼子よりも先に俺の体が動いていた。

「ち、ちょっと・・・・!」

「いいですよ、僕やりますから」

零れたゼリーを取って濡れた服を拭いていく。
やましい気持ちなんて欠片もない。
昔よくやっていたように、体が勝手に動いてしまうのだ。

「・・・ねぇ!自分でできるからいいって!」

夢中で拭いていると突然肩をグイッと押された。
ハッとして顔を上げると、すぐ目の前に涼子の顔があった。

息が止まる。
彼女もそうなのがわかった。

愛しくてどうにかなりそうな彼女がこんなにすぐ目の前にいる。
ちょっと顔をずらせばいとも簡単にキスができる程の距離に。
彼女の瞳から目が逸らせない。
まるで吸い込まれてしまいそうなほど綺麗なその瞳から。


その時、涼子がギュッと目を閉じた。
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