サヨナラなんて言わせない
彼女の緊張感が伝わる。
それは、拒絶ではなく戸惑いの色だった。
今の彼女は俺を拒絶しているわけではない。
ただどうしていいかわからないでいる、それが手に取るように伝わってきた。

心がフッと軽くなっていくのを感じた。

俺は静かに彼女から1歩引くと、そんな彼女をじっと見つめた。
やがて気配が遠ざかったのに気付いたのか、彼女がそっと目を開いていく。
俺の視線に気付くと頬が赤く染まり、瞳が落ち着かないように動き出す。
変わらないその姿が愛しすぎて、俺は堪らず彼女の頭を撫でた。

「ち、ちょっと・・・・?」

テンぱる彼女に構わず手を動かしながら、顔を覗き込んでいった。

「ちゃんとこの後眠ってくださいね?まだ完全に熱が下がってないんですから。・・・顔も赤いですよ?」

「!!!」

バッと頬に手を充てると、ますます真っ赤になった顔で俺を睨み付ける。
そんな睨みなんて全然効かない。
ただの照れ隠しだってわかってるから。
嬉しくて、俺の顔は緩みっぱなしだ。

ボフッ!!

次の瞬間、顔面に見事なホームランが命中していた。
捨て台詞と共に。

「このエロ男!さっさと部屋から出て行けっ!!」
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