サヨナラなんて言わせない
枕をどかすと涼子は変わらず真っ赤な顔で睨んでいる。
それが堪らなく嬉しい。
こうやって枕を投げられることだって、嬉しくて堪らない。
本当に俺を拒絶しているのなら、こんなことすらしてくれないのだから。

「わかりました。じゃあほんとにゆっくり休んでくださいね」

これ以上彼女を興奮させすぎて具合が悪くなっては本末転倒だ。
俺は立ち上がるとドアへ向かった。

「僕はどこにも行きませんから。・・・だからいつでも呼んでくださいね?涼子さん」

出ていく直前彼女にそう言い残す。
真っ赤な顔をしたまま戸惑ったような瞳で俺を見つめている姿が徐々に扉の奥に消えていく。やがてパタンと完全にドアが閉まった。

俺はそのドアにそっと背をもたれて天を仰いだ。

「・・・・・涼子、ありがとう」

誰にも聞こえない声で呟いた言葉はすぐに溶けていく。

俺を受け入れてくれてありがとう。
俺と向き合う決心をしてくれてありがとう。
俺にこんなに幸せな時間をくれて・・・・ありがとう。

言葉にできない想いに満たされながらリビングへと戻っていった。
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