サヨナラなんて言わせない
扉の前で深く息を吸って吐き出す。
そうして心を落ち着けると、ノブに手を掛けて勢いよく扉を開けた。

「あ・・・・」

目の前にいた人物は出てきたのが俺であることに驚いていたが、
どこか予想もしていたような顔でこちらを見た。

そう、彼は『中村君』と涼子が呼んでいた男だ。
彼女の・・・・
そこまで考えて思考をシャットアウトする。

「こんばんは。何かご用ですか?」

俺は至って冷静に、だが決して友好的な空気は滲ませずに話しかけた。

「あ・・・涼子さんは・・・・」

「彼女は今ぐっすり眠っています。何か伝言があるなら伝えておきますよ」

間髪入れずに答える俺に彼の顔色が変わったのがわかった。

涼子が彼に俺のことをどう伝えているのかはわからない。
だが俺と彼女には何かがあることはきっと気付いたに違いない。
・・・そして俺が涼子を愛しているということも。

彼の顔を見ていればわかる。
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