サヨナラなんて言わせない
「40度近くある中でフラフラ帰って来たときは本当にどうなるかと心配しましたよ」

「え、そんなに・・・?」

さすがにそこまでひどいとは思っていなかったのか、男の顔が青ざめる。

「はい。あの体で一日出掛けたなんて、相当きつかったはずです。でももう大丈夫です。俺が看ているからにはすぐに良くしてみせます」

強い語調を緩めない俺を悔しそうに見つめる。
元々強引にでも引き止めなかった俺にも責任はある。
だが、明らかに顔色が悪い彼女を一日連れ回した彼も同罪だ。

「わかり・・・ました。・・・じゃあ彼女をお願いします」

「あなたが来たことは?」

「・・・いえ、伝えなくて結構です。また会社で会えますから」

すっかりトーンの落ちた彼は力なく首を振るだけ。

「そうですか。わざわざありがとうございます」

「・・・いえ、じゃあ失礼します」

そう言うと、彼は踵を返してエレベーターのある方へと歩き始めた。
その後ろ姿はひどく落ち込んでいるように見える。
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