サヨナラなんて言わせない


『アダルトチルドレン』


涼子を失ってしばらくして奏多に言われた言葉。

あいつに言われるまで存在すら知らなかったその言葉は、
まさに当時の俺を表現するにはふさわしいものだった。


幼少期から不安定な家庭に育ったせいで恋愛に何の希望も持てなかった。
不安を消せないながらも初めて抱いた恋心は見事に打ち砕かれた。

失意の底に沈んでいた俺を変えてくれたのは彼女だった。

生まれて初めて自分から誰かを欲しいと思った。
簡単に気持ちを動かされない彼女をもっともっと好きになった。

そして・・・彼女を手に入れることができた。
あまりにも幸せすぎて夢のようだと思った。

そう・・・いつかその夢が醒めてしまうんじゃないかと怖かった。
幸せに浸る一方で、どんなにもがいても消えてはくれない恐怖に怯えた。

弱すぎた俺は・・・彼女の愛情を試すことでしか自分を保てなかった。
あんなに俺を一途に愛してくれていた彼女を試すことでしか。


・・・・そうして彼女を失った。
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