サヨナラなんて言わせない
「あ、じゃあ涼子さんは僕が預かりますよ」

「・・・・・・・・・・・じゃあお願いします」

少しの間をあけて彼はようやく彼女の体を俺へと託した。
手が離れた瞬間、彼の鋭い視線を感じた。

・・・・・彼は涼子さんのことが好きなのだ。

すぐにわかってしまった。
彼はそのことを少しも隠そうとはしていない。
いや、むしろ俺に対して最大級の牽制をしているように見えた。

俺に掴みかかってこないということは、恋人というわけではないのだろう。
そのことにほっとしている自分がいた。

だが彼女の身近にはこんなに素敵な異性がいる。
そう思っただけで言葉に出来ない焦りが俺の中に芽生えていた。


それから彼は後ろ髪を引かれる様子で何度も振り返りながらやがて帰って行った。

俺は彼女を抱き上げると、そのまま寝室へと連れて行った。
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