サヨナラなんて言わせない
そう考えると合点がいく。
何故涼子の様子があんなにおかしかったのかが。

今の彼女なら俺の記憶が戻っていたと知っても、多少の驚きはあれど冷静にそれを受け止められるはずだった。むしろどこか納得すらしただろう。彼女はうっすら気付いていたはずだから。
それは長年彼女を見てきて、そして最近の彼女を見ていて確信を持っていたことだった。

あとは過去の真実を聞いて彼女がどう判断するか・・・
問題はそこだけのはずだった。
それなのに・・・・



最悪だ・・・・


一番最悪な形で涼子に知られてしまった。
よりにもよってカナの存在を誤解されたまま知られてしまうとは。


俺がきちんと記憶が戻ったときに彼女に打ち明けていれば・・・・



いや、今さらそんなことを言ったところでどうにもならない。
今日話すと決めたのは自分自身だ。

落ち込んでいる暇などない。
きちんと話して誤解を解く以外に道はないのだから。









明かりもつけていない暗闇の中に差し込む月の光。
その明かりを一人見上げながら俺は夜明けを待った。
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