サヨナラなんて言わせない
「おはようございます。もうお出掛けですか?」
エレベーターホールから姿を現した俺に山本さんがすかさず声をかける。
「おはようございます。えぇ、ちょっと用事があるので出掛けてきます」
「そうですか。お気をつけていってらっしゃいませ」
優しく微笑んでそう言う彼女の言葉を背に受けながら、俺は足早にマンションを後にした。
今の時刻は8時を過ぎたところだ。
あれからずっと起きていた俺は、結局そのまま日の出を拝むことになった。
それを合図にしたようにシャワーを浴びると、身支度をして時間を見計らってから部屋を出た。
涼子のマンションに着くのはだいたい9時頃になる。
彼女が出掛けてしまう前になんとか会って話をしたい。
・・・そんなに簡単なことではないだろうが。
電車の中から見える流れていく景色を、祈るような思いで眺めていた。