サヨナラなんて言わせない
10分もかからずに、すっかり我が家のように慣れ親しんだ建物が見えてくる。
一步ずつ近付くにつれて鼓動もどんどん速くなっていく。

そしてあっという間に目的地の前へと辿り着いた。
俺はその場で少し考えると、しばらくしてエントランス前のセキュリティを解除して建物の中へと足を踏み入れた。

ここから先は同じように解除してエレベーターに乗ればいい。
だが、それはできなかった。
このエントランス内部までが許される限界だと思った。

俺の右ポケットには涼子から預かったままの鍵が入っている。
いざとなれば中に入っていくことだってできる。
昨日まで当たり前にしていたように。

しかしそれだけは越えてはいけない一線になってしまった。
それをしてしまったら本当に涼子とは終わってしまう。
自分の中で確信にも似た恐怖があった。


まだ彼女と顔を合わせてもいないのに、既に全身凄い汗だ。
ふう~と一度息を吐いて気持ちを落ち着かせると、エレベーターホール前のインターホンを押した。
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