サヨナラなんて言わせない
しばらくの時間二人の間を沈黙が包み込む。
ガヤガヤと談笑する声が、あちらこちらからやけに大きく響いてくる。
そんな人集りをぼんやり見つめていると森さんがおもむろに口を開いた。

「・・・・・伝える方法は一つじゃないだろ?」

「・・・え?」

「諦めるつもりなのか?」

「っそんなことは絶対にしません!」

思いもしないことを言われた俺は即答する。すぐ近くで談笑していた人が突然叫んだ俺を何事かと振り返った。

「すみません、大きな声を出して・・・」

気まずそうにする俺を見て、森さんは満足そうに笑った。

「お前がそれだけ熱くなれる相手なんだ。それだけの強い思いがあるなら方法は何だっていいはずだろ?お前の想いが本気であるのなら、いつか相手には必ず届くと信じろ」

「森さん・・・・」

森さんの言葉は俺の中の不安や迷いを通り抜けてストンと心の奥底に落ちてきた。

伝える方法は一つじゃない・・・・

これまで、何としても直接彼女と会って話すことだけを考えてきた俺にとって、それは思いがけない一言だった。
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