サヨナラなんて言わせない
全てを話すために再会したはずがさらなる誤解を与え、
彼女を泣かせて傷つけて、
おまけにそんな彼女を本気で愛する男まで現れて、
その男は彼女の家に泊まり俺に宣戦布告までして・・・・
状況的にはこの上なく追い込まれていると言っていい。


それなのに、今の俺は不思議なほど落ち着いていた。
あの男の存在が気持ちをぐらつかせるのは変わらない。
とてつもない脅威であることも。

・・・それでも、何故だか恐怖はなかった。

昔付き合っていた頃、彼女をあれだけ苦しめてしまった得体の知れない恐怖心。
それが驚くほど今の自分の中にはなかった。
彼女がどんなに俺を好きだと言ってくれても消せなかったのに何故・・・?



『お前の想いが本気であるのなら、いつか相手には必ず届くと信じろ』



森さんの言葉が頭を駆け巡る。


・・・・そうだ。俺に足らなかったのは相手を信じる心。
それがなかったが故に脆くも崩れた。
自分を好きでいて欲しいと望みながら、自分は相手を信じきれていなかった。
そんな不安定な関係、壊れて当然だったのだ。
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