サヨナラなんて言わせない
***

「賞を取ってからますます依頼が増えたわねぇ~」

「・・・そうだな」

「忙しくなるのはまぁ嬉しい悲鳴とも言えるんだけどさ。司もちょっとは休みなさいよ?」

「わかってるよ」

カナがバサバサと帳簿をめくりながら相変わらず母親のようなことを言う。
カナの言うとおり、ここ最近仕事の依頼が増えている。
だがここは小さな事務所だ。一度に何件も抱えられるほどのキャパはない。
無理をして一つ一つがおろそかになることも絶対にしたくない。
一つの仕事を責任持ってやるためにも、能力に見合った仕事を選んで受けているのが現状だ。

「でも元々依頼が多かったですよね。最初こそ森さんの影響もありましたけど、社長の自力になるのも時間の問題でしたよね」

「それに加えて司が雑誌で取り上げられたのも一つの要因よねぇ。女性経営者からの依頼が明らかに増えたもの」

「相変わらず罪作りな男っすよねぇ・・・」

「・・・・・おい、お前ら。くだらんこと喋ってる暇があるなら給料減らすぞ」

「い、いえっ、ごめんなさーい!」

怒りマークを貼り付けた俺に二人は慌てて仕事に戻る。
・・・ったく。誰が罪作りな男だ!
迷惑してるのはこっちだってのに。
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