サヨナラなんて言わせない
仕事中だけかけている眼鏡を外してはぁーっと目頭を押さえた。
このところまた根を詰めて仕事をしているせいで少し疲れている。
でもこの疲れがどこか心地よくもあった。

俺にとって自分を一番表現できるのがこの仕事だ。
依頼がある有り難さと、自分の作ったものがこの世に生み出されていく喜び、
仕事をしている間はずっとそれを実感できる。

それに、いつか彼女が俺の作ったものを見てくれる日がくるかもしれない。

そう思うとまた違ったやる気が漲ってくる。
どこかで彼女と繋がっているのだと。



あれから数日、俺は彼女にどんな言葉を伝えるべきかを考えていた。
色んなものを見て、聞いて、そこから何を伝えようかと。

だがどんなに考えても、辿り着くのはシンプルな答えだけ。

繕った言葉ではきっと彼女には届かない。
ありのままの俺の想いをぶつけるしかないのだと。


俺が今彼女に言うべきこと、言いたいこと、それを素直に言葉に綴ろう・・・


引き出しから取り出した一枚の設計図。
彼女との未来を信じてつくったあの家の設計図を見ながら、俺は固く決心した。
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