サヨナラなんて言わせない
その日いつもより少し早めに事務所を出ると、俺はその足で文具店に立ち寄った。そこで一つのシンプルで綺麗なブルーの封筒と便箋を買った。

マンションに帰って来るとすぐにその中身を取り出す。
テーブルも何もない部屋、キッチンカウンターを机代わりにその便箋と向き合った。
フーッと深呼吸してペンを持つ。

そして一文字一文字、涼子への想いを込めて手紙を書き始めた。

謝罪の言葉、嘘偽りのない理由、そして・・・俺の想い。

心の全てを込めて丁寧に書き募っていった。


やがて全てを書き終えると、俺は内ポケットからあのカードキーを取り出した。
あれ以降もずっと肌身離さず持ち続けていたこのキー。
それを便箋の中に入れて一緒に折りたたんでいく。

彼女のマンションの鍵を入れるべきかとも思った。
だが、どうしてもできなかった。
彼女のものを間接的に返すことだけはどうしてもしたくなかった。
返せと言うのならば自分の手で直接返したい。

俺はカードキーだけを入れると、綺麗に封をした。
最後に彼女の宛名を記していく。

そうして全ての作業を終えるとその手紙をじっと見つめた。
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