サヨナラなんて言わせない
「社長、森さんが日曜の打ち合わせに一緒に立ち会って欲しいそうです」

「俺が?」

「はい。何でも先方からの希望だとかで」

日曜に森さんの事務所が設計した建物の現地視察があるのだが、一部俺も担当したこともあってこれまでも何度か顔は出していた。

「そうか・・・わかった。森さんにも確認しておくよ」

「お願いします」

「あぁ。じゃあ時間もちょうどいいし今日はこれで閉めよう」

「やった!」

カナと岡田の声が同時に上がる。それもそのはずだ。今日は俗に言う花金。
今日が終われば待ち望んだ休みが来るのだから少しでも早く上がれることはこの上ない喜びだろう。

「後は俺がやっとくからお前達は先に帰っていいぞ」

「本当ですかっ?!」

まるで尻尾を振って喜んでいるかのような姿にプッと吹き出す。
これまで散々振り回してきたんだから、これくらいお安いご用だ。

嬉しそうに帰り支度を済ませた二人を見送ると、俺は事務所の後片付けを始めた。デスクの上のノートをしまうために引き出しを開けると、あのマンションの設計図が見えた。


涼子はどうしているのだろうか・・・・・

・・・・・・会いたい。


彼女の姿を思い浮かべながら俺はそれから岐路についた。
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