サヨナラなんて言わせない
「お帰りなさいませ、南條さん。今日もお疲れ様でした」

いつものようにエントランスで山本さんの出迎えを受ける。

「ただいま帰りました。・・・・今日も来客はなかったですか?」

「はい。特にはございませんでした」

「そうですか・・・・ありがとうございます」

ニコッと笑って会釈をすると、俺はそのままエレベーターに乗り込んだ。

帰宅する度に訪問者・・・・涼子の来訪の有無を確認するのが俺の日課になっていた。
元々ここができたときからコンシェルジュには彼女のことは伝えていたのだが、あの手紙を送って以降、毎日確認するようになっていた。


いつか来てくれると信じて。


ピッと鍵を解除して入った室内は相変わらず無機質なまま。一体いつになったらこの部屋にカーテンがつけられる日がくるのだろうか。
日が暮れる時間が徐々に遅くなるのを窓から眺めていると、彼女に会えなくなってからの時間をあらためて感じる。

「・・・・・今日は少しだけ飲むか」

そう独りごちると、キッチンに無造作に置かれた小さな冷蔵庫からビールを一本取り出し、コンビニで買ってきた弁当を片手に和室まで移動して一人寂しく腹を満たしていった。
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