サヨナラなんて言わせない
クルックルの巻髪とミニスカートを揺らしながら依頼主である小谷さんの手をクイッと引くと、小谷さんはさも今思い出したかのような仕草でその女性を一歩前に押し出した。

・・・・聞く前から既に溜息がこぼれる。

「あぁ、忘れてました。実はこちらは私の娘でしてな。今うちの会社の受付をさせておるんです」

「紗英と申します。初めまして。今日はお会いできるのを楽しみにしていました。今日はご一緒に見学させてください」

グロスのテカテカと光る唇でニッコリ微笑むと、ちょっと前屈みになっただけで胸の谷間が見えるほどの露出の高い服でお辞儀をした。どう考えても見せようとしているとしか思えない。

・・・・・わざわざ出てきてみればこんなこととは。
こんな経験は初めてではなかったが、色々と気持ちを切り替えて前向きになっていた今の俺にとっていつにも増してひどく煩わしかった。
森さんも申し訳なさそうな顔をしている。
きっと彼もまさかこのために呼び出されたのだと今日まで知らなかったのだろう。
彼にも気を使わせてしまって申し訳ない。



俺はそれから常に感じる女の視線に一度も目をくれることなく、
ひたすら仕事に関することだけ説明していった。
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