サヨナラなんて言わせない
小谷さんは残念そうにしていたが、目的の俺が来ないなら意味がないと思ったのだろうか、結局食事の話はなくなってしまった。森さんの咄嗟の機転に心から感謝しつつ、俺たちは彼らに別れを告げてその場を後にした。


「・・・・あのっ、待ってください!」

車に乗り込もうとしていたところで小走りでこちらに走ってくる女の姿が見えた。
すぐに森さんと目を合わせるとどちらからともなく溜息がこぼれた。
やがて目の前までやってきた女は、はぁはぁと息を切らしながら俺を見た。

「あの、南條さん、よかったら連絡先を教えていただけませんか?今日は駄目でしたけど、是非今度お時間のあるときにでも食事に・・・・」

「申し訳ありません。個人的なお付き合いは全てお断りさせていただいてます」

「えっ・・・?」

満面の笑みを貼り付けていた顔が一瞬にして凍り付く。
この手の展開は最近だけでも一体何回目なんだ。

「あ、あの、せめて食事だけでも・・・・」

「すみません、心に決めた女性がいますのでお受けできません」

なおも食い付いてくる女に俺は決定打をお見舞いした。
はっきり断っているのに何故こうもしつこいのだろうか。
そんなに自分に自信があるのか?
俺はつくづくげんなりしていた。
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