サヨナラなんて言わせない
この手を二度と離さない
***



「・・・・・・・・・ん・・・・」


真冬の峠は越えたとはいえ、朝晩はまだまだ冷える。
ぶるりと震えた体を温めようと、腕の中にあるぬくもりをギュッと引き寄せた。

・・・・だがその動きは空気を掠めただけで何も掴めない。

・・・・・・・・・・?


「涼子・・・・?」

もう一度手を伸ばしながら目を開ける。
ぼんやりとした視界に入って来たのは自分以外には誰もいない布団と相変わらず無機質な室内だけ。

「涼子っ?!」

その現実に一気に目が覚める。
ガバッと体を起こして辺りを見渡すがやはり彼女はいない。
慌てて下着だけを身につけると家中を探して回った。


「涼子っ!!」


最後の部屋へ行っても誰の気配も感じない。


・・・・まさか俺はまた夢を見ていたのか?

・・・バカな!!確かにこの手の中に彼女のぬくもりはあったはずだ!!



俺は脱ぎ捨てたままのスラックスとシャツを乱雑に着ると、猛ダッシュで部屋を出て行った。
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