サヨナラなんて言わせない
「あら、おはようございます、南條さん。今日は割とゆっくりなんですね・・・って、
どうされたんですか?!その格好・・・」

「あの!今朝早く女性が出てきませんでしたか?胸ぐらいまでの髪の長さの綺麗な女性なんですが・・・」

今朝は別のコンシェルジュの長野さんに変わっていた。
髪はボサボサ、シャツもボタンがいくつか留まっているだけでズボンもしわしわ、あまりにもひどい出で立ちの俺の様子に驚いているがそんなことに構っちゃいられない。

彼女は俺の風貌と取り乱した様子に信じられないものを見たような顔をしていたが、俺の質問にやがて顔を緩ませてニッコリと頷いた。

「あぁ!その方なら今朝早く出ていらっしゃいましたよ。なんだか随分慌てた様子ですごいスピードで出て行かれましたけど・・・・」

「・・・・・そうですか」


やはりあれは夢ではなかった。
ドッと体から力が抜けていく。

おそらく仕事に遅れると思って焦っていたのだろう。



・・・・だがもし彼女が後悔しているのだとしたら?
また俺の前からいなくなったりしないだろうか?



3年前を思い出して最悪の事態が頭から離れてくれなかった。
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