サヨナラなんて言わせない
その時、あの男の姿が脳裏をよぎる。

・・・・・違う!
あれは俺のせいで彼女を追い込んでしまっただけだ!
昨日も見たじゃないか。
彼女は昔とちっとも変わってなんかいなかったことを。
この目で、この体で、この心で、それをこれでもかと感じたじゃないか。

「だったら彼女を信じてもっとドンと構えておきなさい!あんたがそんなんじゃほんとに逃げられちゃうわよ?!」

とても笑えない一言がグサリと突き刺さる。
冗談すらうまくかわせない俺にカナは呆れたように溜息をついた。

「はぁ・・・あんた、涼子さんのことになるとほんっと重症ね。連絡は?まだ取ってないの?」

「・・・・お互いの連絡先すら知らないんだ。だから電話もできない」

「は・・・はぁっ?!やることやっておいて携帯も知らないって、あんた何やってんのよ!」

「・・・・すまん」

全くもってカナの言うとおりで何一つ反論できない。
でもそれくらい昨日の俺は必死だったんだ。
目の前にいる彼女のこと以外、何も考える余裕なんてありもしなかった。
< 269 / 373 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop