サヨナラなんて言わせない
男の放った言葉に息が止まる。

・・・・やっぱり、この男は全てのことを知っている。
それはつまり涼子が彼を信頼して話したということに他ならない。
それほど二人の絆は深いということ・・・・

嫉妬と後悔と、黒い感情でおかしくなりそうなのを必死で堪える。
握りしめた手はぶるぶると小刻みに震えている。

「どうですか?愛する人が他の誰かと一緒にいるって。辛くないですか?苦しくないですか?」

「中村君っ!」

「俺は・・・・」

「司?」

この男の言うことは間違ってなんかいない。
そして彼女を愛しているならば尚更のこと。
俺が逆の立場でも同じ事を言うに違いないだろう。

だが、それでも・・・・

「俺がやったことは一生償っても許されることじゃない。それは充分わかってる。それで涼子といたいなんて、俺の我が儘だってだってこともわかってる。・・・・・それでも俺には涼子が必要なんだ。涼子なしでは・・・俺は生きていけない。自分の罪は一生背負って生きていく。俺の人生をかけて涼子に信じてもらえるような男になってみせる」

「司・・・・・」

「だからお前には渡さない。これからは指一本触れることも許さない」
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