サヨナラなんて言わせない
「・・・・中村君っ、ほんとにありがとっ・・・・!」

涙声で彼の背中に向かって涼子が叫ぶと、彼は何かを思い出したようにピタリと足を止めてこちらに振り返った。

「・・・・・言い忘れてましたけど、南條さん、キスマークつけるならもっと目立たないところにしてあげたほうがいいですよ。あんまり独占欲剥き出しだとまた嫌われても知りませんよ?」

「「なっ・・・・!!」」

彼の投げた言葉に俺は真っ青に、涼子は真っ赤に、それぞれ真逆の反応を示す。そんな俺たちを見て彼はまた吹き出した。

「ぷっ、やっぱりお似合いです。じゃあまた!」

そう言うと軽く手を振って今度こそいなくなってしまった。

・・・・・悔しいが彼はいい男だ。見た目も、中身も。
よく涼子が受け入れなかったと不思議なほどに。
・・・・彼女が俺を選んでくれたのは本当に奇跡だ。

「ちょっと、司!ほんとになんであんなにキスマークつけるのよ!今朝見て卒倒しそうになったんだから!それにうなじにまでつけるなんて信じられない。さっき中村君に言われるまで私全然知らなかったんだから!・・・もう恥ずかし過ぎる・・・」

真っ赤になって文句を言う涼子の体をそっと引き寄せ抱きしめる。

「ちょっ・・・ここ外だから!うちの会社の目の前だからっ!!」

「ごめん、ちょっとだけこうさせて。涼子・・・・」

今彼女がここにいる奇跡に感謝の気持ちが溢れそうだ。
< 281 / 373 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop