サヨナラなんて言わせない
はじめは硬直していた涼子も徐々に体から力が抜けていき、やがて俺の背中に手を回すとポンポンと優しく撫でた。

「大丈夫だよ。夢じゃないから。もうどこにも行かないから。だから安心して?」

ゆっくり体を離すと、再会してから一番優しい顔で俺を見つめている彼女がいた。その姿に涙が出そうなほどの気持ちが溢れ出す。
まるで吸い寄せられるように顔が近付いた、次の瞬間。

「・・・・言っとくけど、ここでキスはだめだからね?」

俺の動きを読んだ涼子に先に釘を刺されてしまった。

・・・・・やっぱり駄目か。
恥ずかしがり屋の彼女が外でキスなんて許すわけがないのだ。
大人しく抱きしめられていただけでも奇跡のようなものだ。
・・・・でもその変わらないところがたまらなく幸せを実感させてくれる。


「じゃあ帰ろう。そしていっぱいしよう?」

「え?」

そう言うと彼女の手に指を絡ませてズンズン足を進めていく。

「え、・・・・え?司っ?」

展開についていけない彼女はただわけもわからず呆気にとられている。
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