サヨナラなんて言わせない
「はぁ・・・なんか俺にとっては地獄のような時間だったな」

「私も聞きたかったなぁ、司のあんなことやこんなこと」

溜息をつく俺を不満そうな顔で涼子が見上げる。そんな彼女の手を握ると俺の手のひらに指輪のひんやりとした感触が伝わる。

「・・・涼子はもう俺の情けないところをこれでもかって見てるだろ?もうこれ以上は勘弁してくれよ。俺だって一応かっこつけたいところがあるんだよ」

それでもなお不満顔の涼子は視線を繁華街の方に向けたままだ。


「・・・・・・どんなに格好悪い司だって好きなのに」

ボソッと呟いた声がかろうじて聞こえてくる。

「・・・・・・・え?」


今何て言った?


「あ、あーーーーっ!飲み過ぎちゃった!早く帰らないとねっ!」

涼子は俺に背を向けたまま慌てて歩き出す。
その顔は後ろから見てもはっきりわかるほどに赤い。

「涼子っ、もう一回言って!」

「な、何のこと?!」

もの凄いスピードで離れていく彼女をそれよりも大きなストライドで追いかける。一体どうすればそんなスピードが出せるんだ?!
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