サヨナラなんて言わせない
その日彼女の急用で予定をキャンセルされた俺は、空いた時間を埋めるべくただ適当に街で時間を潰していた。受験用の参考書を買ったり、軽く食事をとったり、そうこうしているうちにいい時間になったので帰ろうと駅に向かっている時だった。
予想外の人物を見かけたのは。

「由梨・・・・?」

間違いない、あれは由梨だ。
なんだか普段とは違って随分派手な格好をしている。
誰かと遊んでいるんだろうか?
俺は声をかけようと彼女に近付いていった。

「ケンー!お待たせぇ~!」

もう少しで彼女に届くと思った矢先、彼女が猫なで声を出しながら男の腕に絡みついていった。男に見覚えは全くない。茶髪でいかにも軽そうな身なりは、今日の由梨の格好にはひどく似合っていた。
目の前で起こっていることが頭で処理できない。
俺はそのままどこかへ体を寄せて移動する二人の後をフラフラと追った。

やがてホテルの建ち並ぶ裏通りへと入っていく。
二人は笑いながら場所を決めると、一度キスをして騒ぎながら中へと消えていった。

「・・・・・・一体どういうことなんだ・・・・」

俺は誰もいなくなったその場所で呆然と立ち尽くした。
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