サヨナラなんて言わせない
「やっぱり。ここだと思った」

「あ、司先輩」

人もまばらになってきた夕暮れ時、中庭の外れにある小さなベンチに座って涼子は黙々と課題をこなしていた。もう年末で寒いというのに、彼女は時間さえあればここでこうして一人ゆっくりと過ごしている。
なんでも、誰もいない澄んだ空気の中で見る夕焼けがたまらないのだとか。以前特別ですよと言ってこっそり教えてくれた。
俺は慣れた動きで涼子の隣に腰掛ける。

「課題?」

「はい。なかなかいいデザインが浮かばないのでここに来ちゃいました」

そう言って空を見上げながらはぁっと息を吐き出す。白い吐息が朱に染まった空に溶けていく。
俺はそんな彼女の姿を目を細めて見つめていた。

「司先輩は?まだ何か用が残ってるんですか?」

夕焼けを背に柔らかい笑顔をこちらに向ける彼女が・・・眩しい。

「・・・あぁ。君に用があったんだ」

「え、私にですか?」

心当たりがないのかキョトンとした顔で俺を見上げる。



「涼子・・・・俺は君のことが好きなんだ。付き合って欲しい」
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